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佐賀地方裁判所 昭和50年(行ウ)3号 判決 1977年3月25日

原告 南川伝四郎

被告 佐賀県知事

訴訟代理人 原口貢 北原久信 本村博彦 ほか三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  原告が、その所有にかかる本件農地について、農地法四条に基づく宅地転用の許可申請をしたところ、被告が昭和四九年一一月六日右転用を不許可とする本件処分をしたこと。原告がこれを不服として昭和五〇年一月三日農林大臣に対し審査請求をしたこと、右請求後三か月を経過しても裁決がなされなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分の効力につき判断する。

1  原告は、本件農地は、その位置関係からして、ドライブイン用地として利用するのが最適であるから、その目的で転用許可申請をしたのにこれを不許可とした本件処分は違法である旨主張する。

本件農地が久保田町が昭和四八年に定めた農用地利用計画による農用地区域内にあることは当事者間に争いがないところ、農振法〔農業振興地域の整備に関する法律〕一七条は、都道府県知事は、農用地区域内にある農地法二条一項に規定する農地について、同法四条一項の許可に関する処分を行うにあたつては、これらの土地が農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない旨規定している。

そこで、右規定の趣旨について考察するに、農振法は、自然的経済的社会的諸条件を考慮して総合的に農業の振興を図ることが必要であると認められる地域について、その地域の整備に関し必要な地域を計画的に推進するための措置を構ずることにより、農業の健全な発展を図るとともに、国土資源の合理的な利用に寄与することを目的とするものであり(同法一条)、農用地利用計画は、このような目的を実現するため、都道府県知事の定めた農業振興地域整備基本方針に基づき、農業振興地域の指定を受けた市町村が、農業振興地域整備計画の一環として、農業の近代化のために必要な条件を備えた農業地域を保全形成するため、農用地として利用すべき区域およびその区域内にある土地の農業上の用途区分を定めるものであつて(同法六条、八条、一〇条)、その策定手続においては、土地利用者ら利害関係人の意見を十分反映させるなど慎重な手続を経ることとされている(同法一一条)のであつて、このような基準と手続に基づいて、土地の適正かつ合理的な利用計画が定められた以上、右計画の実行性を確保するため、農地法の転用許可もこれに即して運用すべきことを義務づけた規定と解されるから、都道都府県知事は、農用地利用計画が策定されている以上、農用地区域内にある農地については、右計画が変更され、その土地が農用地区域から除外されない限り、右計画によつて定められた用途以外の用途に供することを目的とした転用の許可は一切なしえないものと解するのが相当である。

ところで、原告の本件転用許可申請が本件農地をドライブイン用地として利用することを目的とするものであることは当事者間に争いがないところ、右のような利用目的が農用地利用計画に定められた用途以外の用途に供するものであることは明らかであるから、後記認定のように本件農地を農用地区域に編入した久保田町の農用地利用計画に何らの瑕疵もない以上、被告において、原告の本件転用許可申請を不許可としたことは相当であり、本件処分には、原告主張のような違法はないというべきである。

2  つぎに、原告は、旧計画案によれば、本件農地は農用地区域から除外され、宅地転用が可能であつたのに、被告は、原告との間の当庁昭和四八年(行ウ)第二号一時利用地指定処分取消訴訟を有利に解決するため、本件農地の宅地転用を妨げる目的をもつて、久保田町と協議のうえ、同町をして旧計画案を変更させ、本件農地を宅地転用の困難な農用地区域内に編入させたものであるから、本件農地が農用地区域内にあることを理由とする本件処分は違法である旨主張する。

本件農地が旧計画案においては農用地区域から除外されていたことおよび原、被告間に原告主張の訴訟が係属していることは当事者間に争いがないが、被告が、右訴訟を有利に解決するため、本件農地の宅地転用を妨げる目的で、久保田町をして旧計画案を変更させ、本件農地を農用地区域に編入させたことを窺わせるべき何らの証拠はなく、かえつて、<証拠省略>によると、久保田町が旧計画案において本件農地を農用地区域から除外したのは、当時国の補助による土地改良事業実施中の土地を農用地区域から除外してもなんら差しつかえないものと解していたためで、その後農用地区域から除外された土地改良事業実施地区に対しては、国の補助を打ち切る旨の方針が明示されたため、旧計画案によつては、実施中の土地改良事業を遂行できなくなることから、やむなく旧計画案を変更するに至つたことが認められるので、右計画案変更には正当な理由があつたものというべきである。

そして、農用地利用計画において、いかなる土地を農用地区域に編入するかは、土地の位置、地形その他の自然条件、土地利用の動向、地域の人口および産業の将来の見通しなどを考慮し、高度の行政的、技術的裁量によつて決定されるものであるから、それが著しく裁量の範囲を逸脱したものでない限り、農用地利用計画を決定する市町村の裁量的判断に委ねられているものと解すべきところ、<証拠省略>によると、被告の定めた佐賀県農業振興地域整備基本方針に基づく農業振興地域の指定基準には、国または地方公共団体の直轄または補助による土地改良事業実施中の土地でその面積がおおむね二〇〇ヘクタール以上ある市町村の全部または一部と規定されていること。本件農地の所在する久保田町は、全町約九七〇ヘクタールにわたつて、国の補助による佐賀県営土地改良事業が実施中であり、本件農地については、すでに土地改良法八九条の二第六項の規定に基づく一時利用地指定処分がなされていることが認められるので、本件農地を農用地区域に編入した久保田町の農用地利用計画は、著しく裁量の範囲を逸脱したものということはできない。

したがつて、原告の右主張も理由がない。

三  してみると、本件処分を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 塩田駿一 三宮康信 窪田もとむ)

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